僕たちは大川常吉になれるか

関東大震災における流言飛語に踊らされた朝鮮人虐殺は「恐怖」に基づくものであり過度な「自衛」から起こったのではなかったかと先のエントリで書いた。
しかしインターネットもテレビもラジオも無かった昔、そのような流言飛語に惑わされず、朝鮮人を守り抜いた警察署長がいた。

翌年2月には、その朝鮮人有志から感謝状をもらっている。

その鶴見警察署長であった大川常吉は、

「鮮人に手を下すなら下してみよ、憚りながら大川常吉が引き受ける、この大川から先きに片付けた上にしろ、われわれ署員の腕の続く限りは、一人だって君たちの手に渡さないぞ」

と並みいる暴徒の前で言ってのけ、朝鮮人が毒を入れたとされる井戸水を一升も飲み干したのだという。
そしてこの話は翌年には震災美談として語り継がれている。

そんな信念のある行動が自分にはできるだろうか。
むしろ問題は暴徒の方で、今はもうこのような挙に出ないと言えるだろうか。
東日本大震災でも無数のデマが飛び交った。外国人の犯罪デマも例外ではない。
むしろ「韓国人に子供を殺されたら責任取ってくれるんですか！？」だの「お前たちは朝鮮人に支配されたパヨク警察か！？」ぐらいのことを言ってのけるのではないか。
現在、参議院議員の有田芳生氏が地方議員の応援演説に出ただけで無数のヤジで該当の地方議員が逃げ出すほどの状況では、令和になろうともどんな「自警団」が生まれないとも限らないような気がする。
情報化の進歩が、世上から無智を追放するということにはなっていないようである。

その大川常吉の墓所と顕彰碑は、横浜市鶴見区の東漸寺にあるという。
一度行ってみようか。

ということで上野で京浜東北線に乗って鶴見を目指す。
京浜東北線は快速運転中であり日暮里には止まらないので、乗換駅は上野。
そして上野東京ラインには乗らず最小の乗り換え数で鶴見まで来ることができた。

鶴見駅の鶴見線ホームは相変わらず私鉄のような情緒を醸し出している。
（決死モデル：チームP ペギー）

前エントリでは「ラバースーツ」だのと酷評したが、まあせっかく作ったものなので使ってみることにする。

日中の鶴見線は20分毎の発車で、これは浜川崎行きとなる。
基本は浜川崎行きで、その中に思い出したように海芝浦行きや扇町行きが混ざるという感じになっているようである。
そして大川行きは朝晩だけ。

そして浅野に到着。
弁天橋で降りるか浅野で降りるか迷ったが、何となく浅野の方が近そうなのでこちらで降りることにした。

浅野は海芝浦支線の分岐駅で、その分岐の間の部分に駅舎があるという形になっている。
このようなタイプの駅は、名鉄の吉良吉田、高徳本線と鳴門線の分岐駅である池谷駅、小野田線の雀田などがそうである。

そして工場地帯の中を北上していく。
広い通りに出ると、それは「ゴム通り」なのだという。
それは戦前まで横浜ゴムの工場があったためであるという。

そして潮田通りに分け入り、鶴見東漸寺へ。

「東漸寺」という寺は日本に何個もあるようであるが、この東漸寺は臨済宗のようである。
門や建物は近代的になっている。
（決死モデル：トルソーさんのアハメス）

そして、例の顕彰碑はこの境内のどこかにあるはず・・・と探すまでもなく、本堂の真ん前にあった。

曰く、

故大川常吉氏之碑
関東大震災当時流言蜚語により激昂した一部暴民が鶴見に住む朝鮮人を虐殺しようとする危機に際し当時鶴見警察署長故大川常吉氏は死を賭して其の非を強く戒め三百余名の生命を救護した事は誠に美徳である故私達は茲に故人の冥福を祈り其の美徳を永久に讃揚する
一九五三年三月二十一日
在日朝鮮統一民主戰線鶴見委員会

そうか民戦が昭和28年に建立したのか・・・
ちなみに大川常吉の没年は昭和15年であるという。