【ブックレビュー】閃光に向かって走れ

犯罪史に関するサイトと言えば、有名どころといえば「無限回廊」、「事件史探求」、「オワリナキアクム」あたりになるかと思うが、最近のWikipediaはこれらのサイトにも載っていないような事件まで載っている。
最近のウィキペディアンは凄いというか、逆に個人サイトでは続ける気力にも限界があるということなのだろう。

今回は、「寝屋川市夫婦殺人事件」を題材にした、「閃光に向かって走れ」(佐木隆三)をレビューしたい。

重厚な社会派小説をものす佐木隆三も、松本清張と同じで北九州の出身である。
北九州には、社会派小説家を育てる素地でもあるのだろうか?
北九州出身の作家と言えば、「青春の門」の五木寛之や、「かたちだけの愛」の平野啓一郎もそうである。
ということで、今回のナビゲーター仕事は、中の中の人が同じ福岡出身のチームY間宮に登場願うことにする。

本書は、表題作「閃光に向かって走れ」 も合わせ、合計4作の小説からなる短編小説である。
これらを順にレビューしていきたい。

【火の中に消えた】

本作は、戦後間もない昭和20年11月に発生した、二又トンネル爆発事故をモデルとした小説である。
史実では、現在の日田彦山線の中でも当時未開通で、トンネルだけが完成していた彦山~筑前岩屋間の二又トンネルに、小倉の弾薬庫の武器火薬を疎開させていたのだという。
これが終戦後不要になったので、米軍の指示のもと、爆発処分させることとなった。
米軍将兵も安全だと高をくくっていたその爆破処理が、想像を超える大爆発となり、山そのものが吹っ飛ぶような大事故となってしまった。
これにより147人が死亡、149人が負傷している。
かといって、米軍から十分な補償がもらえたか?
「Occupied Japan」でそんなことが望めるはずはなかった。
結局、損害賠償の訴えが認められたのは、講和して日本が独立を勝ち取った後の昭和28年になる。

そんな時、ある爆死事故が発生した。
被害者はどうやらその保証金の対象者のようである。
第6感を感じた刑事は、休暇を取って現地へ赴き、残された親族に聞き取りを試みるが・・・

作中に出てくる北九州訛りや、八幡製鉄の構内事情が、佐木隆三ならではの味を感じさせる一作。

【見たかもしれない青空】

終戦後も第2次世界大戦を戦っていた日本兵と言えば、小野田寛郎氏、横井庄一氏を思い出すのではないだろうか。
この他に、台湾の原住民(アミ族)として徴兵された中村輝夫(スニヨン)氏もまた、インドネシア・モロタイ島で潜伏生活を送っていた。

本作では、西表島の炭鉱に徴用され、終戦後も潜伏生活をしていて不発弾に触れ失明した台湾原住民が、石垣島の台湾旅行団として里帰りした際に、アミ族の友人の娘に連れられて、刑務所の中にいるその友人を尋ねるという話。

【狙撃手は何を見たか】

これは北九州の暴力団抗争を題材にしたもので、まさしく北九州出身の佐木隆三の真骨頂が見える一作。
敵対する暴力団の組長を殺して、情婦と一緒にコテージ型のモーテルに立てこもった一匹のヤクザと追う警察。

「旅舎検だけんど、おかしなのは、来ちょらんか?」
「ついさっき戸畑で二人殺した男が、こっちに逃げて来ちょる。紺屋町のクラブ『九州』の前で車から降りたちゅうが・・・」
「どげな男ですな?」
「ピストル持って、パジャマ姿のごたる」
「パジャマば着て、人殺しですと?」

こんな感じで北九州弁のやり取りが続く。

【閃光に向って走れ】

先述の通り、「寝屋川市夫婦殺人事件」を題材にした表題作。
基本的には、捜査の流れをそのまま書き記した・・・ と言った方が早い。
事件の端緒から犯人逮捕までが淡々と書き記された感じで、小説というよりは「記録」と言った方がしっくりくる感じはする。

犯罪捜査にあたっては、現場に残った数少ない手がかりから、あらゆる可能性を想定しなければならない。
関西弁のやり取りの中から浮かび上がってくる犯人像。
そして実際に逮捕されてみると、全くもって想像もしていなかったようなところから犯人が出てくる。

 

 

 

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